演劇としての「近松」
         ――『曽根崎心中』を弾いてみると――


Page4   質問コーナー




◎質問コーナー

さて時間なんですが。質問がありましたら。
何かございますでしょうか。


――近松とちょっと関係ないんですけども。錦糸さんは東京出身で、大阪弁をしゃべっておられますけど、三味線の音は、ふだんから大阪弁を話すようにすることで、変わってくるというか、違うふうになってくるもんなんでしょうか。

大阪弁の話ですけども、義太夫節ってのは、大阪で生まれて、大阪で育っているわけで、作曲もすべて大阪弁のイントネーションになっています。
ですからそれを、夜が明けた(大阪弁で)というでしょ。
訛らんように、チツツとこう弾かないかん。
東京やったら、夜が明けた(標準語)でしょ。
だから、ぼくら東京の人間が行って最初に困ったのが、訛っとるで〜と。
いまだにわからんのが、雲や蜘蛛や。お空にあるのはどっち? くも?  ん?(笑)
端か橋か箸か。これも難しいです。
ま、こういう話は住大夫師匠なんか上手ですから。
とにかく大阪弁って、非常に難しい。
そしてすべての曲は、大阪弁で作曲されています。
わたしも一遍言われたことがあるんやけど、「三味線が訛っとる」。
三味線の手数が、微妙に大阪弁のイントネーションと違う音になると、大夫が訛っているように聞こえるんです。
そやから、普段から大阪弁を使ってくださいということで。だから、大阪弁勉強せないかんのです。

ほかに何かございますでしょうか。


――いまのことと少し関係があるかと思うんですけど。文楽よく拝見させていただいてますけれども、本来上方のものであるはずが。東京ではいま国立劇場が定期的にやっていますけれど、大阪では現状は、歌舞伎ほど文楽はあまりお客様がはいらないとうかがったんですけど。そういうことについて、現場におられる先生はどのようにお考えになっておられるでしょうか。それからまた、これだけ素晴らしい伝統芸能で、今後の後継者とか、いうことが問題になってきて、先生も国立の研修生でいらっしゃって、そこからあがってらっしゃったと思うんですけれど、いまの研修のあり方とか、後継者育てについておうかがいしたいです。

いまおっしゃったとおり、大阪は最近入りが悪いですね。
東京は相変わらず好調なんですけども。それにしてもいつまで続くかと思うんですね。
その東京にしても、平日の夜の部は、多少空席がありました。
切符、ほんとにないと思っている人が多いんですけれど、実はこのあいだも、切符、あったんです。
夜の部。ちょっとさびしかったんですけどね、みんなないと思ってる。

逆に大阪は、いつでも行けまっせ。(笑)
文楽、大阪のもんや。いつでもやってんねん――。こんなです。
いつでもはやってません。決まってます。
正月に、4月に、7月8月通して、あと11月。これだけしかやってません。あと一般公演はしてません。
だから大阪の人、そうなんです。いつでも行ける。
そやからあかん、支えてくれてへん。
晩なんかさみしいですよ。
だからほんとに好きなんかいなと思って。そのへんがちょっと心配なんですけどね。

とにかくこれからも現役が頑張らないかん。
なんたって現役。中でも大夫さんがいちばんお客さんにアピールする。身体で表現しているわけですからね。
いい大夫が出てくれば、お客さん絶対増えると思うんです。
ま、それが今後の課題やと思います。

研修制度は、やはりちょっとね。
もっと大々的にやらないと駄目だと思うんです。
いま研修生、ふたりです。
ひとり三味線弾きです。ひとり人形遣いです。これでは駄目です。
三味線やったらやっぱり3人。少なくとも3人くらいいて、競わせといて、途中で必ずやめるヤツが出てきますから。
人数を多くとってですね、その中で切磋琢磨して、いい人材を残さないかん。
やはりちょっとお金のかけ方が中途半端やと思います。

ほかになにかございますか。


――すごくいい音だったんですけと、三味線にもストラディバリとか、そういうのがあるのでしょうか。

それはまるでありません。鳴ればいいんです。
昔から何代目の誰が使ってたって三味線はあるんですけど、置いといたら駄目になっちゃうんです。
木がね、かすかすになりますし。
その人の手に合うかどうかはまた別なんです。
この三味線でも、違う三味線弾きが弾きますと、違う音になります。
ですから、絶対に名器というのはありません。自分の手に合った三味線で弾けば、その人の音が出る。
だから結局ね、ここだけの話ですけどね、これ(腕)なんですよ。(笑・拍手)


――演奏中に何度か弦をなおされてたと思うんですけど、弦がすぐにずれてしまうからでしょうか。それとも、場面によって、ちょっと低めの音にしようとか。

いまは同じ調子です。ただ微妙にずれる、だから、いじったんですけども。
これもね、さっき控室でね、真ん中の糸が――二の糸というんですけど、これが使ってたもんで、ぼろぼろになってきましてね。替えました。
それと、三の糸といって、いちばん細い糸も。これだけのお客さんに来ていただいているんで、サービスで替えました。(笑)
それで、今日蒸し暑いでしょ。湿度が高いでしょ。これ、絹糸でできているんで、すごい伸びるんですよ。
でまた控室でしごいたんで、ずりあがってくるんです。弾いているうちにずるずる変わってくるんで、いじってただけです。
確かに中途で転調することはあります。今日に関してはございません。


――まず見てもらうことでしょう。わたしは歌舞伎からはいったんですけどね。まず見てもらうこと。ショックを受けるくらいにね。大夫さんが語って、三味線が弾いて、人形が動くという。最初はちょっとショックなくらいですのでね。まず見てもらうことですね。

そのとおりですね。とにかくなんでもいいから、とにかく一遍ね、来ていただくと雰囲気、わかります。
世の中ね、退屈やと思ったらなんでも退屈。
現場に行くとなんとなく雰囲気はわかる。
劇場に行くとね。匂いが違うんですよ。これだけでもたいしたもんですよ。その現場にいあわせてると。
だから一遍だまされたと思って。だまされることもありますよ。(笑)
でもいまぼくが語ってた程度の言葉ですから、そんな難しくないでしょ。
大阪弁であってもね、結局日本語でやってるわけですから、日本人が日本語でやってるのをわからないという、日本人のほうがおかしいわけなんで、わからないとか思わんといてください。
全体的な雰囲気で。義太夫を語ってる大夫の表情見て、三味線の音聴いて、人形まで遣ってくれてるんですから、わからん訳がないんでね。
一遍遊びにいらしてください。
東京公演は9月ですけども、夏には大阪でございますので。
大阪にちょっと遊びにきたついでにのぞいてくだされば、結構やと思います。

では今日はこんなところで。
ありがとうございました。




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