第一回突撃インタビュー


Page3  錦糸さんのプライヴァシーに迫る




◎プライヴェートについて

――プライヴェートになりますが、だったら家にいるときは、空き時間はずっと稽古ですか?

そうでもないですよ(笑)。
ある程度は時間つくってやらんといかんけど。
今日はここまでやらないかんとか、そういうのは段々わかってくるし。
忙しい方がいいんですわ。暇だとかえってできない。
なんとなくぼ〜っとやってたりね。忙しいと必死になってやるでしょ。
この時間にこれだけおぼえてとか、今日はここまでやってとか。かえって集中するんじゃないでしょうかね。

――お休みの日は何をしているんですか。

え〜と……長期の休みはないです。ふだんは……何してるかな(しばし考えこむ)。
休みやったら家にいます。子供とどっか行くこともたまにはあるけど。
そんなに出かけられないですね。
ぼくひとり休みやったら、家にいて、練習してるかな。

――何をしてるってのはないんですか?

ないですねぇ。ひとりでどっか行ったってつまらないしね。
何をしてるわけでもなく。
テレビも見ないです。野球くらいかな。
でもぼくがテレビ見てると子供も一緒に見るでしょ。勉強しないでしょ。怒られて、ぼくも見られなくなる(笑)。
でもそうやねえ、まあ商売第一ですからね。

休みがとれたら、またどっか行くこともありますけどね。そんなにとれないですよ。
だいたい休みのあいだに仕込みがあるわけでしょ。
だから休もう思ったら、事前に相当仕込まないかんのですよ。
こないだも一週間休んでお遍路行ってたんですけどね。
その一週間休みをとるために、帰ってきたらすぐ稽古が二本くらいあるわけですよ。
それをおぼえてからでないと行けない。大変ですよ。

――お遍路って、四国ですか? どなたと?

そうそう四国。子供とです。もう三回行ってる。装束つけて本格的にね。八十八カ所。
面白いですよ。のんびりしますわ。七十くらいまで行ったかな。
以前は山登りに行ってたんだけどね。山やめて四国になった。
一度行ったらやめられなくなってね、次の夏に行けるだろうと思うんだけど、そしたら結願ですわ。
お遍路、面白いですよ。

――お子さんのことをうかがいます。長唄の三味線やってらっしゃるそうですね。

お隣の奥さんが長唄の名取だったんですよ。それでなんとなく習いはじめた。

――ずいぶんお上手だと聞きましたが、そっちの道に進ませることは考えていませんか?

ぜんぜん。本人たちもそんなこと言ってないです。
そんないい商売だとも思ってないでしょ。だってぼく見てたらわかるでしょ(笑)。
よっぽど好きだったらべつやけど、ふつうもっとほかに道があると思うでしょ。

――じゃあ、お子さんの将来のことには口を出さない?

何も考えてない。自分のやりたいことやるのが一番ですよ。
ぼくらが勝手気ままにきてるのと同じことでね。
あのときああ言われたからこうなった、なんて言われたらこっちもつらいしね。
自分で勝手に決めて、自分で選んだ道だったらしょうがないでしょ、失敗したってね。
それは本人の責任ですからね。

――錦糸さんご自身のときは、ご両親の反対はありました?

反対はなかったですよ。ぜんぜんないです。驚いてはいましたけどね(笑)。
うちの母親なんか、他人に迷惑さえかけなかったら何してもいいって。
教育方針がそれひと言。究極ですよ。
あとは自分で決めなさいって。

――もし文楽に出会ってなかったらどうなさってました? 落語ですか?

(考えこむ)どうなってただろうね……なんだろね……一応大学行ってるんじゃないかな。

――じゃあ大学に行って、ふつうのお勤めですか?

……それはしてないでしょうね。
だってやりたい仕事ってなかったからね。なんでもいいっていうんじゃないと思うから。

――でもやりたい仕事なんて、ふつうあるもんじゃないと思うんですけど?

それにしてもね。まあどうなってただろうね。
大学はいって、就職どこにしよかって段階になって、またどこか逃げてたんじゃないかな。
結局ふつうにはなってないと思いますよ。
はやい時期にこの道と出会えたってのはほんとラッキーだったです。それを逃しちゃうと、大学はいってうだうだしてただろうね。

――ギターで洋楽の道に行っていたとか?

きっちり習いにいってたらね。なんでもきっかけだと思うけど。

――錦糸さんの場合はきっかけがこれだったというわけですか。大当たりだったですね。

それはわかんないですよ、これから先まだ長いんだから。

――そうかあ。まだ“若手”なんですよね。でもすごいですね。四十でまだ若手ですもんね(あまり若くないインタビュアー、羨ましげ)

そう。若手公演出てますもん(笑)。たしかにまだ若手やね。
だいたい30年で中堅かな。それもその人の技量で変わってくるし。
いつまでたっても若手公演に出てる人もいるしね。
それは難しいですわね。

――それでは、奥さまに何かひと言。

(しみじみと)ようしはる。ほんま、ようしはる(笑)。
ま、身体壊さん程度に。

――漏れ聞いたお話なんですが、住大夫師匠が自分のガールフレンドをとられたとか言っておられるそうですね?

……ねえ(笑)。

――師匠の楽屋にいりびたってた奥さまを、かっさらったというお話なんですが、そうなんですか?

それは偶然ですよ。まあ、楽屋が師匠と一緒やったから。
それで、住大夫師匠のとこにきてた人だから。
若い人はあんまりきてなかったんですよ。
家内と、家内の友達くらいだったかな。
ひとりでもきてたかな。

――しょっちゅういらしてたんですか?

そんなことないですよ。

――そうなんですか? じゃあ、それをすかさずつかまえたんですね?

そうそうそう(笑)。ま、そういうことです。

――伝統芸能の世界では、奥さまの力というのはずいぶん大きいですよね。

あんまり出しゃばってもいかんけどね。そこがむずかしいとこで。
気配りがいちばん大事ですわね。
マネージメントみたいなもん必要やからね。
大変ですわ。ようしはる。

――サイトのほうでもいろいろと気配りしていただいてます。

あれね、ようできるようなったわ。
ああいうこと、いたって嫌いな人なんですよ。
死んでもやらないって言ってたから(笑)。
ほんとに不思議でしょうがないんですわ、あれやりだしたってのが。
なんなんでしょうね。(笑)


◎ホームページについて

――ホームページについてご意見をお聞かせください。

まあ自分でやってる人もいるみたいやけど。
ぼくはね、自分で出てってどうこうとは思ってないです。
みなさんが盛り上がってくれるぶんにはかまわないんだけどね。
こっちから積極的に宣伝して、誰でもいいからお客さん来てくださいっていうようなもんじゃないですからね。
よくわかってない人はきてくれても続かないしね。

興味もった人がきてくれて、楽しくなってくれて。
それで観劇のヒントがここにありますよというのやったら嬉しいかな。
ぼくもいくらでもお話します。

――案内役の私があまりよくわかってないので、ピントはずしてばかりですみません(笑)。
ではこれを読んでくださる方々に、また文楽を見にきてくださる方々に、何かひと言お願いします。


これから文楽のレベルが低下しないように、お客さんにもうるさく指摘してほしいですね。
いい意味で、素直な批評をしてほしいです。
だいたい芸人とつながりができたら、その人のことはぜったいよく見えるわけですよ。
そういうのでなくてね。素直に劇場にきて、なんかこの人よかったとか、この人は自分の考えてるのとちがってたとか。国宝だって悪いときはあるわけですから。
そういうのをずばっと言えるような人に増えてほしいですね。
お金はらってきてるんだからね。
そうでないとあきませんわ。

――褒めるばかりじゃなく、貶すばかりじゃなく、ですね。

そう。お客さんも勉強して成長してほしい。
褒めるのも簡単だし、貶すのも簡単。
そのバランス感覚が必要ですね。
褒めるにしたって、どこかちくっとひと言なかったらあかんし。
貶すにしたって貶しようがむずかしいじゃないですか。

――勉強させていただきます(笑)。
伝統芸能は、なんとなく高尚なものとしてたてまつる傾向がありますよね。ありがたく拝聴するというか。
でもそもそもは庶民の芸能なんですよね。


高尚じゃないですよ。みんな地下鉄のって通ってるんだもん(笑)。
家元制度みたいに、お弟子さんからお金吸い上げてハイヤーかなんかで通うようになったら、庶民の芸はできないです。
ほれたはれたとか、生きるの死ぬのの世界でしょ、義理人情の世界でしょ、ふんぞりかえってハイヤー乗ってたらやってられない。
だから国宝でもみんな地下鉄乗って、いろんな人の顔見て、勉強してるんです。
そんなもんです。

――どちらかというと東京のほうが、芸術鑑賞をするんだって雰囲気は強いですね。

お客さんが堅いですね。入りがいいからそれなりに盛り上がるけど。
大阪は知った人が多いし気楽にきてるけど。でも入りが悪いんでね、盛り上がりようがないわけですよ。
拍手しようかなと思っても、まわりガラガラやから(笑)。
ある程度つまったところだったら、ひとり拍手したらみんなつられて拍手してくれるけどね。
そこが問題やねえ。

最中に拍手したらいけないという人がいるらしいけどね。これは間違いですよ。
なのにしょうもない人形の出入りだけで拍手する。これはいかん。
浄瑠璃の山場とか、そこはもう人形も盛り上がってるわけだから、そこで拍手するべきなんですよ。
そうしたらみんな助かるんですよ。大夫も楽だし、三味線弾きも楽だし、人形遣いも気合はいるし。
拍手したら怒られた、にらまれったてのがあるらしいですけど、それは絶対におかしいです。

ま、そんなことです。
お客さんに頑張ってほしいです。
もちろん芸人も頑張らなあかんけど。お客さんにも頑張ってもらってね。
いい意味で先入観なしに、芝居を楽しんでもらってね。
で、批評してもらえれば、いちばん芸人のためになるんです。

――今日はお忙しいところをありがとうございました。



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