第一回突撃インタビュー


Page2  芸談いろいろ




◎芸とは

――すごく馬鹿な質問かもしれないですけど。公演にあげない曲でも練習なさいますよね。いま、どれくらい貯えがありますか?

さあ、どうだろ。本棚整理したら山ほどやってますわ。

――それだけのものを、いつでも舞台にあげられる?

そんなことないです。やっぱり勉強しなおさないかんです。
そのときのレベルがあるでしょ。手数だけおぼえれば通った時代もあるけどね。
いまそんなことやったら、あいつアホや言われます(笑)。

でも新しい本はね、師匠は稽古なんかしてくれませんからね。
どうしても教えてもらいたいものは頼めばやってくれますけど、師匠かて公演出てるんやから、そうは言えませんわ。
やっぱり自分で勝手に勉強せないかん。
師匠のとこいって本を借りてきて、自分で勉強する。

それに一度くらいつとめたってね、つとめたうちにはいらないですよ。
たとえば素浄瑠璃なんかで1回やるでしょ、なんにもならないです。
本公演でひと芝居弾くでしょ。
でもひと芝居すんだらぱっと忘れる。もう1回やったってまた同じようなもんでね。
まあ3芝居くらいやったら、だいたいこんなもんかなって見当つきますけどね。

――いまお得意のものといえば、なんでしょうか。

得意なものなんてないです。
住大夫師匠はだいたい時代世話が多いけど。地味なものね。
やっぱりそういうもの、好きです。
ぼくの芸風とは合わないという人もあるらしいけど、ぼく個人としては、はんなりしたもんよりか、泥臭いもんのほうがやってて面白いです。
そういうの勉強するほうがね。

引き窓みたいなのね。時代世話いうてね。いちばん難しいんですわ。
派手なもんのほうがごまかしはききます。
地味なものはお客さんに訴えかけるようにやらないかん。その中にちょっとキラッと光るものがあればいいんですよ。難しいですわ。
でもそれが面白いんでね。なんでも勉強やしね。

でも逆に、ぼくの芸からいったら、どっちかっていうと派手なほうが向いてると思うんですよ。
だからそこへ行かないで、逆なとこに行ったのがよかったと思うんです。
でないと嫌な芸になってたと思います。わたしゃこれですよって鼻にかけてね。なりやすいからね。

音のいい人はもうすぐ音で勝負しようとする。
いい音にしてもいい声にしても、5分聞いてたらそれが当たり前になるでしょ。ずっと全編いい音だったら、1時間聴いてたら山ないなあって。なんぼいい音でも飽きる。
声の悪い人もね、悪い声やな〜思っても、じっと聴いてるうちにそれがまた当たり前になるでしょ。

芸はむずかしいですよ。考え方ひとつですから。
いかに掘り下げて物事を考えられるかってことですね。
上っ面だけちょっとなぜてるとね、それでも成立する場合はあるけど、それをくり返してると大変なことになる。
終わりないです。もう悩んでますよいつも。
それがいいほうに出てきたらいいけど、悩みが悪いほうに出てきたら、お客さんつらいわね(笑)。

――自分が上手だと思ってる芸はつまらないですか。

つまんないですよ。

――でもやっぱり、自分がいちばんだと思ってる部分もあるでしょ?

そりゃあるけど、でもそれが顔に出たら駄目ですわ。

お客さんと話しててね、自分の思いとぜんぜんちがうこと言われるんですよ。
それはそれで、ああなるほど、そういう考え方もあるかと、聞いてなしゃあないんですわ。
それはちがうんですよ、ぼくはそうやないですと言うのは簡単です。
でもそう聞こえたんだもん。自分ではそう思ってやってないんだけど、そのときお客さんにそう聞こえたらやっぱそうなんや。
10人いてひとりでもそういうふうに聞こえたんやったら、やっぱりそうなんでしょうね。

その逆にね。ぜんぜんちがうところで、よかったって言ってくれる人もいてね。
一段どうこうじゃなくて、一カ所だけね。あそこの変わり目がよかったねとか。
知り合いでひとりだけ、ずばっと言ってくれるんですわ。
よっぽど聴いてる人ですよ。それがまた嬉しいんですわ。

一段通したら、いいとこも悪いとこもいろいろあるわけだから。
自分なりにすっといったな思うところと、失敗したなって思うとこと。
今日はだいたいなんとかいけたなっていう日と、悪かったなって思ってる日と。
いろいろあるわけですよ。でもそんなん度外視して一生懸命やってるわけだから。
ここと思ってやってるところをここ言われたら、それは嬉しい。
芸ってのはね、そういうもんです。

――うーん、聴く方にもキャリアがいるということですね。

まあいろんな聴き方ありますけどね。
お客さんは大事ですよね。お客さんは、なんか面白いこと言ってくれるからね。
そう褒めてはくれないけど、ヒントになることも多いです。
自分の悩んでるときにちょっとしたこと言われて、ああ、なるほど、原因これだってのが出てくることもあるんです。
ありがたいですよ。

前にまわって、自分で自分の姿見たり芸を聴けるんだったら、苦労ないですけど。
それを見てて、聴いててくれてるわけですから。

――ビデオやテープは駄目ですか。

駄目ですね。
舞台稽古もね、いままでは越路師匠がずっと聴いててくれたんですよ。
怖かったですよ。舞台稽古がいちばん怖かった。
それまで稽古してもらってても、舞台稽古はべつで怖かったですね。
終わって、呼ばれて、挨拶して。
ここがこうだとか、ここはちょっとゆっくりしてるなとか、いろいろ言うてくれはった。
それがすんだらほっとしました(笑)。
浄瑠璃をいちばん知ってる人ですからね。三味線のこともよう知ってる人だったから。
ぼくらのやってること、手の内丸わかりなんですわ。
何考えてるかわかる。

――住大夫師匠とはまたちがう感じですよね。

住大夫師匠はもっと現実的です。
前で見て云々以前の段階で、駄目なら駄目でとまってしまうわけだから。いちばん苦労するのは住大夫師匠(笑)。
ぼくが悪かったら、それふりほどいてでも、これがほんまやてやらないかん。
三味線につきあってられないわけですよ。
そればっかりやったら浄瑠璃にならないから、一生懸命ふたりで稽古して、なんとか一応のところまでもってかないかん。

――師匠との稽古はどれくらいとるんですか。

最低一週間。
それまで自分で稽古して、もってってあわせて稽古するのが最低一週間。
ものによっては10日くらい。
毎日やりますよ。芝居中でもやります。
ものによったら、舞台すんだらすぐにつぎの稽古。大変ですよ。
いまもね、このあいだからずっと引き窓の稽古して、11月の稽古を一緒にあわせてやってますからね。
ちょっとほかの仕事もやったりして。
すっとやっても2時間ですからね。ふらふらなりますわ。

師匠との稽古もね、あんまりね、いわゆる次元の低い稽古はしたくないと思ってます。
とにかく勉強していけばなんとかなるもんなんだから。だから勉強するわけで。

研修所にいるときもね、手取り足取り、これでもかってのはいやだった。
これをおぼえてこい言われたら、おぼえていけばいいでしょ。
つぎこれやるから言われたら、またおぼえていって、その手がちがうぞ言われたらまたおぼえて。
ある程度やってきたらあんまりしょうがないことで怒られたくない。
お稽古うかがって、その三味線どないもならん言われたくないでしょ。
そこは手がちがうぞとか、間違ってるとか、そんなこと言われるのは嫌なわけですよ。
すっと弾けてあたりまえ。その中で、そこはもうちょっとこういうふうに弾いたらよう聴こえるでとか。
稽古ってそういうもんでしょ。
だから、自分で苦労して勉強していって、それを師匠の前で発表するんです。

やっぱりもうちょっと上のことを言われたい。それはつねに思ってます。
だから住大夫師匠の稽古に行っても、いちいち言われたら嫌ですわ。
雰囲気がどうとか、せめてそういうレベルまであげとかないと。
ついていけないですからね。

とにかく自分の家での練習がまず第一ですね。
人にはわからないところがね、勝負。
人前にでたら知らん顔してなしゃあないです。



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